【主人公】「マフラーずれてる。こっち向いて。直してあげる」
無造作に巻かれたマフラーを結び直す。
私の冷たい手が首筋に当たったのか、翼君はビクッと震えてから、くすぐったそうに身をよじった。
【主人公】「あ、ごめん! 私の手、冷たかったよね。本当にごめん!」
さっき生徒会室で思わず手を握ってしまったことを思い出し、私は思わず赤面してしまった。
【天羽】「……何の心配をしてるんだ? 君の手は冷たくても特別だよ」
【主人公】「でも、さっき……」
【天羽】「さっきビクッとなったのは……君が、おとぎ話のお姫さまみたいにキレイだったから」
【天羽】「触れたら、魔法が解けて……君が消えてしまう気がして……」
【主人公】「翼君……」
恥ずかしそうに笑うと、翼君は大きな両手で、私の頬を包み込んだ。
目をパチパチさせて何度も私を見つめる翼君。
【天羽】「消えないね。良かった~」
【主人公】「当たり前じゃない。私は翼君の前から消えたりしない」
ほっとしたように白い息を吐くと、翼君はぬははと笑う。
その笑顔も見つめながら、私は幸せな気持ちになった。
【主人公】「私のほっぺた冷たいでしょ? 翼君の手が冷たくなっちゃうよ」
私の両頬を包む翼君の両手に自分の手を重ねた。今度は体がビクッとすることもなく……
翼君は、ほんのり頬を赤く染めて、恥ずかしそうに笑っていた。
【天羽】「……これじゃ、君の手の方が冷たくなるぞ」
【主人公】「翼君のおかげでほっぺがあったくなったから、お互い様だよ」
【天羽】「ぬはは……そうだな。あったかいな……」
【主人公】「あっ! ねぇ見て! ここからもツリーの灯りがぼんやり見えるよ!」
【天羽】「ほんとだぁ~!」
【主人公】「今日は楽しい1日だったね?」
【天羽】「もちろんだよ。そうするために頑張ってきたんだ。ぬいぬいもそらそらも……君も……」
いつもとは違う大人びた表情を見せる翼君。その横顔はどこか切なげに見えた。
【天羽】「俺ね、クリスマス祝うの久しぶりなんだ。だから……楽し過ぎるのかもしれない。だから、怖い」
【主人公】「怖い……?」
【天羽】「楽しいって思っちゃう自分が、怖いんだ。……やっぱり俺は変なのかもしれない……」
【主人公】「でも、楽しいって思うことはいいことだよ。怖く思うことなんかないよ」
私の言葉に翼君はそっと目を伏せた。
そして、ゆっくり言葉を選んで――
【天羽】「慣れちゃいけないんだ。楽しいって思っちゃいけない、一度でも楽しいのを覚えちゃうともっと欲しくなる」
【天羽】「楽しい時間には……いつか終わりが来ちゃうから。それが終わったら、寂しくなるから……楽しいって思っちゃう自分が怖い」